焼酎神を祀る竹屋神社
本格焼酎の一大産地、鹿児島県南さつま市にある竹屋(たかや)神社は、焼酎と同じく火の中で生まれた三神と、神武天皇の祖母である豊玉姫(トヨタマヒメ)の神様四柱を祀る神社です。
この神様四柱の神話と焼酎の生成や発展の歴史に共通点が見られることなどから、2018年9月9日、竹屋神社に「焼酎神」が奉斎され、現在「焼酎神社」として親しまれています。
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──炎三兄弟と焼酎
日本神話では、アマテラス大神の命令でニニギノミコト(初代天皇の曽祖父)が三種の神器と神聖な稲穂を授かり高千穂の峰に降り立ち、日本の統治を始めたとされています。ニニギノミコトは、黒瀬杜氏や阿多杜氏の出身地で知られる南さつま市の笠沙の御前で木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)と出会い、最初の都を笠沙宮に定めたとされます。
ニニギノミコトは、契りを結んだコノハナサクヤヒメがたった一晩で妊娠したことから、自分の子ではないのではないかと疑います。そこでコノハナサクヤヒメは疑いを晴らすため、自ら産屋の出入り口をふさいだ後に火を放ち、「神様の子であれば死ぬことはない。無事に産むことができるでしょう。」と、燃え盛る火の中で三人の子供を無事出産しました。
三人の子供は火の中で生まれたこともあり、いずれも火を冠した名前を持ち、長男「火照命(ホデリノミコト)」は火が燃え始めた時に生まれ、次男「火須勢理命(ホスセリノミコト)」は火が燃え盛っている時に生まれました。火の勢いが弱まった最後に生まれたのが、三男「火遠理命(ホオリノミコト)」といわれています。
コノハナサクヤヒメが火の中で出産(蒸留)し、三人の子供を生んだ(初留、中留、後留)この一連の流れが、焼酎蒸留の様子に例えられることから、米焼酎の神様と考えられるようになりました。
しかし、ホデリノミコト、ホスセリノミコト、ホオリノミコトの三柱を祀る竹屋神社は米焼酎だけの神社ではなく、芋焼酎を含む焼酎全体の神社です。次のもう一つの神話を見ていきましょう。
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──海幸彦と山幸彦
日本神話では長男ホデリノミコトは海幸彦、三男ホオリノミコトは山幸彦とも呼ばれています。
ある日、兄の海幸彦から借りた釣り針を山幸彦は海でなくしてしまいます。兄の怒りを買った山幸彦は海神の宮殿へと出向き、そこでトヨタマヒメと出会い、恋に落ちて結婚します。トヨタマヒメの父・海神の力を借りた山幸彦は釣り針を見つけ、その際に譲り受けた海を満ち干させる玉を使って兄を懲らしめ、ついに兄に服従を誓わせたといわれています。
焼酎文化の発展には、「蒸留技術」「さつまいも」「黒麹」という外からの文化伝来が必要不可欠でしたが、山幸彦が海神の力(外の力)を借りて権力を握ることとなったこの出来事は、焼酎文化の発展になぞらえることができます。トヨタマヒメを加えた竹屋神社の神様四柱をめぐる神話は、まさに焼酎の発祥から、その後の発展の歴史と一致しているように見えます。
焼酎神社の誕生
二〇一八年九月九日、焼酎神を祀るにはこの竹屋神社がふさわしいと、氏子、焼酎関係者、地域有力者が集い、竹屋神社で焼酎神を奉斎する式典が盛大に執り行われました。焼酎神社となってからは、芋焼酎製造が始まる前の八月に、蔵元から寄贈された焼酎がずらりと並ぶ中、製造の安全を祈願し、良質な焼酎原料の安定確保を願い、國酒にふさわしい味わいの焼酎ができることを祈念し、さらに焼酎業の益々の繁栄を願って、「焼酎神祭礼」が開催されます。
現在、鹿児島県内ではマスコミに取り上げられる機会も増え、焼酎神社として知られるようになってきた竹屋神社ですが、まだその知名度は鹿児島県内にとどまっています。これからさらに広く、多くの人に知られることとなり、焼酎関係者の拠り所になればと願っております。
【参考文献】
「焼酎の履歴書」鮫島吉廣
御祭神
中央本宮 | 火遠理命(彦火々出見命、山幸彦)、豊玉姫命 |
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東宮 | 火須勢理命(火闌降命) |
西宮 | 火照命(火明命、海幸彦) |
アクセス情報
住所 | 鹿児島県南さつま市加世田宮原2360 [地図] |
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交通 | 鹿児島市内から車で約1時間 |
駐車場 | 駐車場あり |